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ストイックに生きるって難しい


by stoicpanders

彼は長いジャングルをひたすら独り目的地方向へ進んでいた。
だれもこんな無謀な挑戦に賛同する訳も無く、結局独りでここまでやって来たのだ。
この熱帯雨林の中では、正常な頭も少しずつ崩壊していく。
蒸し暑く、いきなりスコールに見舞われたりする。日本じゃ考えられないくらいの大きさの蚊が、どこまでも追いかけてくる。ぬかるみに足を取られ、見たことの無い生き物達がじっと視線を向け、草木が行く先に立ちはだかる。徐々に彼は体力を失っていく。自然全体がボクを拒絶するようだ。それでも道なき道を、地図と磁石をたよりにひた進む。果たして、ボクは生きてあの場所まで到達することが出来るんだろうか…。今は自分を信じるしか無い。

彼の目指すものは、夢にまで観た滝だ。そこで、「100%の何かを成し遂げる」のが彼の長年の夢であった。
世界中の、他にどこにも無いそれは唯一、そこに存在するのであった。彼は、それを実行するに相応しい所まで、自らたどり着いたと確信し、このあまりにも無茶な夢への挑戦を実行に移したのだ。生きて皆に再び会えるかもわからない。しかし誰も彼を止めることはできない。あの人には、さよならすら言っていない。

さらに湿気が体力を奪い取る。彼の正気を支えているのは、あの滝で「100%のある何かを成し遂げる」ための気迫だけであった。
ふと、彼は自分がいったい、なんでこんなことをしているんだろうと思った。
こんな苦しいことを…もっと肩の力を抜いて、夢は夢にしておいて、何となく楽しくおかしい毎日を、皆で送ればいいじゃないか。あの人がそうしているように…。
日々想っているあの人には、未ださよならを言っていない。自分の気持ちが届かなくて、ふてくされて、逃げるように困難に立ち向かって、でもそれが原動力になって彼は結局ここまで来てしまった。
彼の体力は、もう限界だった。多分、もう返りの分の体力なんて残ってない。初めから一方通行片道切符だってことはわかっていた。ずっとずっと思っていた。ボクとあの人は、もう二度と交わることの無い方向へずっと進み続けて来てしまったんだって。その距離は、もう後戻りできる距離じゃないんだって。

意識が朦朧とする彼は、ふと微かに空気が冷たいことに気付く。
「これは…」
まぎれも無く近くに滝のある証拠。そして、微かに轟く低音。
彼は我に返り、その音のする方に、残りの体力を振り絞って進み始めた。
「近い!」
ドドドドド…少しづつ開けてくる視界と、微かに香る香り。
ジャングルが途切れ、彼の目の前に、夢にまで描いた景色と寸分変わらぬ景色がそこに現れた。
目の前に広がる景色に、彼は目を奪われ続ける。
そこには、黄金に輝く水が、高さ100mはあろう高さから降り注いでいる。
「うひょー!」
彼は、今までの疲労が、まるで嘘のようにはしゃぎまくり、その滝壺に飛び込んだ!
ドボーン!
彼は、上から降り注ぐその黄金の水をガブガブと飲みながら、バシャバシャと泳いでいる。誰もいない秘境。彼は、はたから見たら、まるで狂っているように、自らの欲望を満たし続けた。
「100%だー!」

上から降り注ぐ黄金の水、それは彼の大好きな100%オレンジジュース。
彼の夢は、
「ダイスキナ100%オレンジジュースガ、ツネニナガレツヅケルタキデ、ソレヲノミノミオヨイデミタイ」
と言うことだった。

彼は、多分生まれて来るのが早すぎたんだと思う。
by stoicpanders | 2007-06-12 22:59